君といた夏を忘れない〜冷徹専務の溺愛〜


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 実は随分前に用意していた、この用紙。
 前もって色々準備してしまうのは、秘書の性だと思いたい。いや、正直に言えば、少し先走って、ワクワクして、役所に取りに行ったのだ。結婚式は随分先になって、出番はまだだけれど。

 私は、その用紙に、遼一さんが褒めてくれた字で、丁寧に自分の名前を書いた。



 帰宅した途端、リビングのテーブルに置いてあった『それ』に気付いた彼は、あっという間に私を腕の中に囲い込んでいる。

「楓、あれ……」
「私の手書きの文字を書いて渡すとしたら、これかなぁって」
「……反則だ」

 遼一さんの腕が力強く私を抱き締めた。

──婚姻届のサプライズは、成功したみたい。

「私、遼一さんのこと、愛してますからね?」
「分かってる」
「ちゃんと、覚えてます。忘れてません」
「……うん」
「結婚、してくれますか?」
「もちろん」
「んん!」

 遼一さんの噛み付くようなキス。その余裕の無さも、私の嬉しさに変わる。
 ずっと、大人で余裕のある貴方には敵わないと思っていた。でも、今は──。

 そして私たちは、よく晴れた夏の終わり、
私の誕生日に、結婚式を待たず入籍した。