食事を終えると、紅と宗介はすぐに店を出た。食後もゆっくり過ごすような店ではないからだ。そもそも、紅はそれを狙ってこの店を選んだのだ。

(デートじゃないもんね。ただ食事しただけよ)

 誰に言い訳する必要もないのに、自分の心に何度もそう言い聞かせた。

「うまかった、本当に」

 宗介が店前に立つと、街の中華屋が高級レストランのように見えてくる。彼のこのオーラは天性のものだろう。
「それならよかった」と言って、紅は微笑んだ。

「そーだ。遅くならないうちに送り届けるから、ちょっとだけ付き合ってくれない?」
「え?」
「ほら、せっかくM市まで来たしさ」

 食事だけで解散するはずだったのに、結局紅は彼の誘いを受け入れてしまった。
 昔からそうだ。ちっとも強引なところなどないのに、こちらがそうとは気づかぬうちに彼が主導権を握っている。こういうところは本当に経営者向きだと、紅は感心してしまう。

 宗介の付き合ってほしい場所とは、駅からもそう遠くない公園だった。公園と言っても遊具があるような子供向けのものではなく、大きな池と桜並木が自慢の自然公園だ。
 コンクリートジャングルなんて古い言葉もあるが、都内はこうした大きな公園がいくつもあり、意外と緑豊かだ。