婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました

 結局、反対されるんじゃないかという紅の心配は無用なものだった。

「色々と面倒なしきたりも多い家だ。苦労をかけるかも知れないが、どうか宗介をよろしく頼みます」

 宗介の父親に頭を下げられて、紅もあわてて「こちらこそ! よろしくお願いします」と返した。母の麻子は、この結婚に誰よりも乗り気だった。

「久しぶりね~紅ちゃん。すっかり綺麗になって」
「は、はい。すっかりご無沙汰してしまっていて、すみませんでした」
「結婚式楽しみだわ~。天国の二ノ宮さんも、きっと待ちきれないんじゃないかしら」
「……はい。晴れ姿を、父にも見てもらいたいです」

 それが紅の素直な気持ちだった。天国で、きっと喜んでくれるだろう。父が誰よりも信頼していた宗介との結婚なのだから。

「そうよね、そうよね。おめでたい話はどんどん進めたほうがいいと思うのよね。てことで、じゃーん」

 麻子はホクホク顔で大量のパンフレットをテーブルに並べた。

「式場の候補にドレスショップに、ありったけの資料を集めておいたの。一緒に選びましょ。私の黒留袖はね、贔屓のお店にもう連絡済みよ~」
「……だから、先走りすぎだって」

 宗介は呆れかえっていたけれど、紅は素直に嬉しかった。結婚すれば、麻子のことも「お母さん」と呼べるのだ。その日がくるのが、とても楽しみになった。