婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました

 父の死後、京香のことは意識の外に追いやろうとしていた。向き合えば、憎んでしまいそうだったから。けれど、そのせいで、楽しかった思い出まですっかり忘れてしまっていたみたいだ。

(そうだ。幸せだった時間も、たしかにあったのに)

「ありがとう。開けてみてもいい?」
「も、もちろん! でも、もう錆びたりしてるのもあるかも……」

 紅はひとつひとつ、大切に包みを開いていく。
 アンティーク風の日記帳、小さなピンクの石が輝くネックレス、幾何学模様がシックなスカーフ、大人っぽいボルドーのネイル。
 お洒落が大好きな彼女らしい贈り物ばかりだった。同じアイテムはひとつとしてなく、毎年考えて選んでくれていたのがよくわかる。

 最後に、紅は一番新しい箱を手に取った。鮮やかなブルーの小箱だ。

「それは今年、二十五歳のお誕生日の分よ。絶対に似合うと思って」

 中身は真珠のピアスだった。

「つけてみたら? きっと似合うよ」

 宗介がピアスを取って、紅の耳元にあてがう。