婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました

 一体なんなのだろう。紅は説明を待った。

「紅ちゃんが一人暮らしをはじめて、もう七年も経つのよね。これね、七年分の誕生日プレゼントなの」
「えっ……私あてなの?」

 紅は驚きで目を見開いた。晶は毎年必ずメールか電話をくれたが、京香はもう自分の誕生日など覚えていないと思っていた。

「毎年、郵送ならって思うんだけど勇気が出なくて渡せなかった。私からなんて嫌だろうと思って」

 寂しげな微笑を浮かべて、彼女は言う。それから、はっと気がついたように慌てて言葉を重ねた。

「あっ。両親に払ってもらったりはしてないからね。私のパート代から……だから、どれも大したものじゃないんだけど」
「誕生日なんて、よく覚えてたね」

 紅が言うと、彼女は不思議そうに首にかしげた。

「だって、春雅さんが元気だった頃は毎年必ず食事に行ってたじゃない? あの人、仕事人間で家族揃っての食事なんて紅ちゃんと晶のお誕生日くらいのものだったわよね」

 言われてみれば、思い出す。多忙な父が誕生日の夜だけは、仕事よりも家族を優先してくれた。毎年、最高に美味しい素敵なレストランが予約されていた。
 深く考えたこともなかったが、きっとレストランを探してくれたのも、父に遅刻せずに来るように口酸っぱく言ってくれたのも、京香だったのだろう。