婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました

 京香のほうがなんだかソワソワと、所在なさげにしている。改まった席だと事前に伝えてあったので、ホテルスタッフは一番奥のゆったりとしたソファ席へと案内してくれた。
 彼女たちの現在の住まいである、京香の実家に出向かなかったのは向こうの祖父母に気を遣ったためだ。高齢の祖父はこのところあまり体調がすぐれないと聞いているし、血縁のない孫娘に結婚挨拶に来られても困ってしまうだろうから。
 
「ねえちゃん、結婚式するならダイエットだろ? 頼んだケーキは俺が食べてやるよ」
「余計なお世話。ここのショートケーキ美味しいもん、食べるわよ」

 晶がいてくれて本当によかったと紅は思う。三人だけでは、きっと間がもたなかったに違いない。コーヒーとケーキが運ばれてきて、晶のお喋りが止んだタイミングで宗介が口を開いた。

「紅さんとの結婚をお許しいただけますか? なにがあっても、必ず彼女を幸せにします」

 凛々しく引き締まった表情で、幸せにするときっぱりと言い切る彼の姿は、惚れ惚れするほどにかっこよく、紅は改めて自身の幸せをかみしめた。

「宗介さんもご存じの通り、私は許すとか許さないとかそんな偉そうなこと言える立場じゃないので……」

 小さな声で話し出した京香は、以前とは別人のようだった。かつてはモデルのように華やかで綺麗な人だった。今でも十分に美人だが、良い意味で普通のお母さんらしくなっていた。会わないでいた間に、彼女も変わったのかも知れない。