婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました

「紅。このネクタイ、派手じゃないかな? 髪ももっと短くしたほうがよかった?」

 宗介はいつになく落ち着かない様子で、待ち合わせのホテルラウンジをうろうろと歩き回っている。ネクタイはシックで素敵だし、髪型も清潔感があってかっこいい。そう何度も伝えているのに、心配で仕方がないらしい。

「なにも心配いらないよ。宗くんのご両親はともかく、うちのほうは反対とか絶対しないから。そもそも反対される筋合いもないし……」

 挨拶だって、宗介の両親の了解を得るのを先にしたほうがいい。紅はそう主張したのだが、宗介がどうしてもと譲らなかった。そのため、今日は紅の継母と弟に、明日は宗介の両親へ、となかなかのハ漢字(かんじ)ードスケジュールで結婚報告を済ませることにしたのだ。

 宗介とはまた違う理由で、紅も緊張はしていた。

(お母さん……会うのはいつぶりだろう)

 弟の晶とは時々食事をしたりもするのだが、継母である京香とは就職して以来ほとんど交流がない。年始に挨拶の電話をするくらいのものだった。