同級生とはいえ、TV局に出入りし芸能人のパーティーにもお呼ばれするような彼女は別世界の人のように感じられた。
 彼女の家族は宮松を贔屓にしてくれていたので店で顔を合わすこともあったのだが、いつも軽く会釈を交わす程度だった。
 もっとも玲子のほうにも思うところはあったらしい。

「うちはほら、一代限りの成り上がりみたいなもんじゃない? 紅達のグループはホンモノって感じでなんか近寄り難くてさ〜」と、仲良くなってからこっそり打ち明けてくれた。

 仲良くなったのは中学三年のときだった。漠然と進路に悩んでいた紅は、生まれて初めて学校をさぼった。校門までは行ったが、ふらっと引き返してしまったのだ。その様子を見ていた玲子がなぜか追いかけてきて紅に声をかけてくれたのだ。彼女は紅の継母の口調を真似て、学校に休みの連絡を入れてくれた。そして、上手に学校をさぼるコツをレクチャーしてくれた。

 それをきっかけにふたりは仲良くなった。根が真面目な紅はもう学校をさぼることはなかったが、玲子に誘われて放課後にちょっとだけ夜遊びをしてみたりした。彼女と親しくなって紅の世界はどんどん広がっていった。紅の青春の隣には、いつも玲子がいた。

 宮松が倒産し、紅がお嬢様でなくなっても彼女は変わらなかった。今は脚本家の卵として相変わらず華やかな世界にいるが、こうして月に何度かはふたりで会って他愛ないお喋りを楽しむ関係が続いている。

 今夜は玲子の自宅近くの銀座に紅が出向いた。紅は職場に近い東京都M市のマンションで一人暮らしだが、M市は交通の便がいいので都心に出るのはそう苦ではない。
 お店は玲子が予約しておいてくれた。ごくごく庶民的な和食の居酒屋だ。安月給の紅に気を遣ってくれている面もあるのだろうが、本人いわく「小洒落た料理は食べ飽きた」んだそうだ。