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バイト帰り、空腹を知らせる音に促された僕は、駅から少し外れたとろにある小さな喫茶店を訪れていた。
莉乃に教えてもらった喫茶店。今日、どうしてか急にこの喫茶店のことを思いだして足を運んだのだった。
その日は金曜日で、時刻は19時を指していた。この喫茶店は20時に閉まるので、閉店時間1時間前の今は、店内には僕と この店のマスターしか見られなかった。
「翼くん、久しぶりだねぇ」
「…そうですね。ご無沙汰してます」
「外は寒かっただろう。飲みなさい」
白い髪に黒い髭を生やした60代半ばのマスターは、創意って僕の前にそっと珈琲を差し出した。「ありがとうございます」と言ってカップに手を伸ばし、口の中に含む。
懐かしい香りと、口当たりの良い苦みを連れた味が口いっぱいに広がる。芯まで温まるそれに、僕は何故かいつも涙が出そうになるのだ。



