「…莉乃がいない毎日を生きるのが辛いんです。俺があの日ちゃんと迎えに行っていたらあんなことにはならなかったかもしれない。彼女が殺されたとき、最期になんて言葉を言ったのか、なんて助けを求めたのか、俺は、知らない」



この3年の間に、いないはずの彼女の声が聞こえた。


“助けて翼くん”――悲鳴のような声で、何度も、何度も僕を呼ぶ彼女。
逃げるように耳を塞ぎ、戻れない過去に泣きたくなった。


ごめん。ごめん、莉乃。
助けてあげられなくて、間に合わなくて、ごめんなさい。



「…もう…つらい、」



頬を伝う涙は、いつから溜めていたものだろう。

彼女が死んだとき、僕は状況を呑み込むこともままならず涙が出なかった。時間が経っても、彼女がいない現実を認めたくなくて泣くことを無意識で封印していた。

長い期間抑え込んでいた気持ちは、あふれ出したら最後――止まることを知らない。


つらい。もう、僕は、彼女がいない世界を生きるのが辛い。

だけど死にたくない。
彼女を追いかけて死ぬ勇気が、僕にはない。



声を殺して情けなく泣く僕の肩に優しく手を置いたマスター。泣いたのも、人の温もりに触れたのも、僕にとってはすべてが久しいことだった。