「君、かなり痩せたんじゃないか」



マスターは店内に僕しかいないのを良いことに、職務中にも関わらず自分の分の珈琲を淹れ、僕の顔を見てそう言った。


言われてみれば、莉乃がいなくなってから3食まともに食べたのはいつが最後だっただろうか。食事をとる行為よりも、布団にくるまってもういない彼女を思い出すことのほうが多かったかもしれない。


3年前までは、彼女のお気に入りということもあって この店でよくご飯を食べていたのに、莉乃が死んでからずっとこの店には来ていなかったので、マスターはずっと心配していたと僕に言った。



「…すみません」

「いや、いいんだ。君が生きていてくれただけで安心したよ」



もう3年も前のこと。僕がずっと抜け出せないままの過去も、他人からしたら遠い昔の、数ある事件の一つでしかない。


莉乃の事件はニュースになっていたので、僕が口にせずとも彼女がもうこの世にいないことは、彼女を知る人のほとんどは把握していることだった。

それでも、彼女の同級生も、バイト先の人たちも悲しんでいたのは最初だけで、きっと今頃普通に息をして、くだらないことで笑って“日常”を生きている。



莉乃の死を引きずっているのは 彼女の家族と僕くらいだろうな、と、そんなことを時々思い出しては悲しくなることももはや恒例だった。