「なに隠れてんの」
「ひゃ!?」
しょぼりうなだれたあたしの腕を、やや乱暴に引っ張ったのは利人。
い、いつの間に。
椅子の上で危うくバランスを崩すところだった。
おそるおそる見上げる。
利人の隣にアヤノさんは……もういない。
「席替えしたんだ?」
「アヤノさんは?」
「は?」
「さっき一緒に入ってきたじゃん」
「あー。このクラスの友だちに用があったらしい」
「……そうなの?……でも、」
しょっちゅう一緒にいるんでしょ。
お似合いだって噂されるくらい、学校では、あたしより一緒にいるんでしょ。
「で。席替え、したの?」
利人は繰り返した。みんながいる教室だから笑顔ではあるけど、若干圧を感じる。
「したよ。見たらわかるくない?」
「なんで斉藤くんにくっついてんの、迷惑でしょ」
「教科書見せてもらったの。あたしが忘れたから」
返事まで、妙な間があった。
「……利人?」
「だめだよ。俺がいるのになにやってんの」
耳元で囁かれた。
冷たい声に、背中がぞくっと反応する。



