そう言い切ると同時に、覚悟を決めて利人の手を振り払った
──────つもりだった。
それを許さなかったのは、他でもない利人。
「じゃあ俺が叶えてやるから、……それでいいだろ」
相変わらず表情は読めないのに、指先だけが、すがるように絡んでくるから。
とっくに狂った心臓が、よりいっそうおかしくなる。
「……よくない、利人の考えてることわかんない。嘘つき、叶えてくれるなんてどうせその場しのぎの言葉なんでしょ、わかってるもん」
涙がこみ上げてくる気配がして、いったん唇を噛んだ。
「面倒くさいな。どうやったら信じるの」
「……そんなの、自分で考えてよ」
「押し倒して息つく暇もないほどキスして毎晩お前が泣くまで可愛がってやろうか、あの漫画みたいに」
「、っ、な……」
今度は羞恥で涙が滲む。
するとすかさず、
「冗談だよ」
と、抑揚のない声が落ちた。
…………そうだよね、冗談。からかわれたんだ。
こんな場面でもすぐ冗談言えちゃうくらい余裕でいいね、利人は。
あたしが今さっき、どんな気持ちで手を離そうとしたか、知りもしないんでしょ。
「────でも、もう他の男なんか見ないでね」
静かな声とともに指先が離れていく。
あたしは聞こえないふりをした。
そんな冗談、もう聞きたくないよ。



