「そんな真剣なアレじゃないから、難しく考えなくて大丈夫」
斉藤くんが慌てたようにそう言った。
「オレ、今まで本気で誰かを好きになったことなくてさ。今後、本命の子ができたときのためにひと通り経験しておきたいんだよね」
「は、はあ……」
「だから、菜結ちゃんが今フリーなら、どうですかね……その……お互いに都合のいい、練習相手てきな」
あー……ね?
あとくされない関係ってやつだ。
普段なら、ソク断ってる提案。
好きな人がいるのに他の人とそういうことするなんて、不誠実極まりない。
でも……
「それって、ニセ彼女ってことになるの?」
「んー。ニセモノって言うのもなんか嫌だから、リハーサル彼女ってことでどう? お互い、恋愛のリハーサル相手になるってことで」
「……んん……ええと……明日まで考えさせてくれる?」
そんな返事をしてしまったのは─────裏で女の子と遊んでるらしい利人への対抗心。
「おけ、明日また返事聞かせて。じゃあオレ、塾あるからまたね!」
斉藤くんはそう言ってそそくさと背を向けて走っていってしまった。



