ワンテンポ遅れて、乃亜ちゃんが、あ、しまった、みたいな顔をした。
「ごめんごめん、このウワサ菜結はまだ知らなかったかあ」
「……え? ええと、」
「幼なじみだから、てっきり知ってるものだと思ってた。知ってて許容してたんじゃないんだ?」
「………、」
利人は学校じゃ常にニコニコで誰のことも邪険に扱わない人たらしだから、男の子はもちろん、女の子とも仲良くしてるのは知ってた。
でも、ただ仲良くしてるだけだと思ってた。あたしが、他の男の子と喋るみたいに……。
「遊びって、“そーいう”アソビ、なの?」
「逆にそれ以外に何が?」
鐘突き棒かなにかで頭を殴られたみたいな衝撃だった。
「まあ、私も現場を押さえたことはないから定かでは────うわ!? え、菜結、泣かないで」
なんの予兆もなくぼろっと溢れた涙。
気づいた乃亜ちゃんが、今度はあたふたし始める。
そっか、そうなんだ。
薄々気づいてたけど。利人にとっては、たかだかキス。
やっぱり、ちっとも特別なことじゃなかったんだ……。



