「お前遅い。化粧とかしなくていーから」
「やあっ、引っ張らないで……っ」
リップの上。グロスを重ねたタイミングで、とうとう痺れを切らしたお目付け役さまに、洗面台の外へと連れ出されてしまった。
「ひどい、ちょっとズレちゃった……」
「大丈夫ズレてない」
「ズレてるよっ。ちゃんと見て!」
思わず腕をとってしまって、すぐに後悔する。
面倒くさそうに顔を近づけてきた利人に、心臓が急激に暴れだすから。
「っ、やっぱり見なくていいよ!」
胸板を押し返して利人から離れた。
やばいかも、挙動不審。
それから学校に着くまで、利人の目は一度も見れなかった。