暴いて、甘い衝動 【再連載中】

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「遅い。お前は化粧とかまじでしなくていい」

「うるさいい、急かさないで。今大事な最終段階なんだから」


「……毎日そんなに手間かけて、誰の目に映りたいの?」

「へ、なんて?」



低い声でなんか言われた気がするけど聞き取れなかった。

まあ、どうせ悪態を付いたんだろうし、もう一度聞き返すなんて野暮なことはしない。



「はい終わり、もう待てない本気で遅刻する」

「やあっ、引っ張らないで……っ」



リップにグロスを重ねたタイミングで、とうとう痺れを切らしたお目付け役サマに、洗面台の外へと連れ出されてしまった。



「ひどい、グロスはみでちゃった……」

「どこが」

「上唇の左側! 利人のせいでズレたの、ちゃんと見て!」



勢いに任せてそう言った刹那、ハッとする。

面倒くさそうに顔を近づけてきた利人に、心臓はあっけなく狂う。



「っ、やっぱり見なくていい……」


どんっと胸板を押し返して利人から離れた。

やばいかも、挙動不審。



それから学校に着くまで、利人の顔をまっすぐ見ることができなかった。