オチ無し王子と先読みの姫





 二人が結ばれて数年後、王子は辺境の領主を任じられた。
 姫の国から見れば、東の端のさらに端、遥か遠くの異境に違いあるまい。

 それでも彼女たちは仲睦まじく、知恵を絞り合って領地を治める。
 やがて東の国が隆盛するのは二人のお蔭なのだが、まだこの時は知る(よし)もない未来のことだ。

 王子はかねてから姫の噂を耳にしており、城に招かれた際には跳んで喜んだという。
 もっとも、選ばれる自信は皆無で、無我夢中で(つむ)いだ話はほとんど覚えていない。

 それを姫に打ち明けた彼は、ずっと心に抱いていた疑問を彼女へ問う。
 自分でも、あの時の話が面白かったとは思えない。
 いつ「もういい」と止められるか覚悟していたのに、どうして最後まで聞いてくれたのか、と。

「たしかに……面白くはなかったかも」
「ならどうして?」

 彼女は当時を思い出して、楽しそうに微笑んだ。

「みんな、練りに練った話をしてくれた。でも、話すことにばかり夢中だった」
「ボクは違った?」
「ただただ、私に(・・)喋りたいっていうのが伝わったから」

 王子が何より考えていたのは、ほんの寸刻でいいから長く姫の前にいたい、だ。
 オチも面白さもすっ飛ばし、息継ぎも怪しい勢いで、時間を引き延ばすことだけに集中したのだった。

「求めているものを勘違いしていたのかも。それに、ずっと話してくれれば、いつかきっと面白くなるわ。それまで聞かせてくれるんでしょ?」
「約束しよう。じゃあ、今日は地下室の話かな。王城には鍵の掛かった部屋があってね――」

 きっとこの夜も、物語は尻切れてしまうのだろう。

 それで幸せなのだと、姫は黙ってつまらない話に耳を傾けた。