牛乳と卵を買うついでに、もう一つ欲しいものがある。
 プレゼントを持ってウロウロしたくはないので、手早く買い物を済ませ、本屋は日曜に行くことにする。

 午後一時には家に戻り、スマホを握り、自室の椅子に腰掛けた。
 勝巳の一件を紗代に伝えるべきだろうか。

 黙っておくと、あとでコッテリ文句を言われそうではある。
 告白されたわけでも、関係が深まったようにも思えないのだが。

「いやあ、さっきはバッチリできた。頑張ったよ、ボク」
「もうちょっと優しく注意してよ」

 得意満面のミャアは、何のつもりか身体をくねらせて踊り出す。
 両腕を波打たたせる動きは、カワウソ流のフラダンスといったところだ。

「上手く行くと気分がいいね。一緒に踊る?」
「踊りません」

 ミャアの目的は、私に嘘を言わせないこと。
 それが成功したから喜んでいるのだから、私は勝巳に嘘をつきかけたってわけだろう。
 宙返りまで始めたミャアを横目に、自分の言動を振り返る。

 “カウンセラーになんてならない、志望大学だって変えるかも――”

 言わずに済んだ私の嘘。
 カウンセラーの資料を集め、実務の様子をドキュメンタリーで把握し、必要なスキルも調べた。
 今になって違う道に進んでも、後悔を招くに違いない。
 父はきっかけで、目指そうと努力したのは私自身の意志だ。

 その場の勢いで自分を偽ると、周りにも悪影響を与えるという理解でいいのかな。
 針路の曖昧な勝巳なら、また受験校を変えたりしそう。

 彼を好きなのか、この期に及んでも確信が持てない。
 紗代へのメッセージも、そんな微妙な感情が思いっ切り文面に滲み出た。

 “勝巳と付き合うかも。付き合わないかも”

 返信がすぐに画面に映る。

 “どっちよ! 一から説明しなさい”

 面倒臭い。
 恋愛話に紗代がここまで食いつくとは、意外だった。
 告白は無し、プレゼントは有り。
 デートの約束無し、一緒にコーヒーを飲んだだけ。

 箇条書きで事実を並べると、まどろっこしいとばかりに、直接電話が掛かってくる。

『もう、どうなってんだか。勝巳は何て言ってた?』
「一緒の大学に行きたいって。それだけ」
『シャキッとしない男ね! もうアヤちゃんから告ったら?』
「やだよ。付き合いたいって、まだ心底から思えないもん……」
『こりゃあ、先が思いやられるわ』

 電源を切り、スマホを机に置くと、ミャアがダンスをやめて私を見ていた。
 生意気にも短い前脚を組み、これでいいんだと(さか)しらに頷く。

「正直に思いを話せばいいだけだよ。それで万事オーケー」
「分かったようなこと言っちゃって」
「彼が頼りないのは、まだ若いから。これから成長していけばいいんだ」

 勝巳のことは、カワウソに言われるまでもなく、一朝一夕で片が付く話ではない。
 紗代に知らせたら、これで一端は彼の顔を頭から追い出そう。
 それよりも、だ。

 高校生を若いと言うミャアは、じゃあ何歳なのか。
 疑念がさらに濃くなった今、いよいよ確かめる時が来た。
 そのための用意を、スーパーで仕入れてある。