「それが危険なものだっていうのは、ヒゲにびんびん伝わってくるよ」
「超危険。ヤババ・マキシマムなんだから」
「それは分からない」

 ともかくも一定の(ライン)を引いたことで、ミャアも少しは分別を持って行動するだろう。
 一日中、ミャアへの対策を考えたことで、ようやく冷静に頭が働くようになってきた。

 さして実害は無いのだ。
 変に怯えなければ、愛玩動物となんら変わりないと思う。

 神出鬼没なのは厄介だけど、猫だって似たようなもの。
 紗代の飼っている猫も脱走癖があり、やたらと家出するそうだし。

 朝食同様に、出来上がった料理をミャアと向き合って食べる。
 カワウソ用にはスープとキウイ、加えて私には野菜炒め。

 美味しいを連発するミャアは(うるさ)くて仕方ないが、これくらいは目をつむることにした。
 賑やかなのは悪くない。

「ねえ、昼は嘘を止めに来たの?」
「そうだよ。ぎゅふふ」

 変な含み笑いは、キウイのせい。
 すっかり気に入ったみたいだ。

「確かに作り話で誤魔化そうとしたけど、些細な嘘じゃん。それでもアウトなの?」
「んー、あれくらいは大丈夫そうかな」
「なら、止めなくてもいいよね。何でも正直に話すなんて、逆にトラブルの元だもん」

 笑いを堪える紗代の顔が浮かび、口許がへの字に垂れ下がる。
 誠実さも、時と場合によりけりだろう。
 嘘も方便って言うじゃないか。

「正直より良い嘘は無いよ。その場しのぎは、最後に不幸を呼ぶんだ」
「ミャアにしては、難しいことを言うんだね。でもさ――」
「練習だよ。いざという時に嘘をつかないよう、日頃から練習しとかないと」
「えー」

 今ひとつ得心がいかないまま夕食を終え、洗いものを済ませて二階へ上がる。

 下校からこの方、考えることが多くてスマホの電源を入れていなかった。
 充電しようとバッグから取り出し、念のためにホーム画面を映すと、珍しく着信のアイコンが点灯している。

 “話したいことがあるんだ。暇な時を教えて”

「勝巳か……」

 彼からのメッセージへ「今ならOK」と送ったところ、すぐに返信が届いた。