ああ、読める!
 滲んでしまったけど、さすがは万年筆の耐水インク、ちゃんと文字は判読出来た。

 もう飛ばされないように、日記帳を握る手に力を込めて、君との日々を丹念に読み返す。
 秋から冬へ、冬から春へ。

 なぜか分からないけど、夏より先は読めなかった。()せった君を見守った記録は。
 ただ背を丸め、日記帳に覆い被さり、(まぶた)をきつく閉じる。

 濡れた服が熱を奪い、冬みたいに冷たい。
 君がいてくれたら、温かかっただろうに。
 ビュービューと唸る風鳴りが、全てを消したのが幸いだった。







 白塗りされたような時間が過ぎたあと、周囲が静まったことに気づく。
 顔を上げたボクの瞳に、厚い雲間から差す陽光が飛び込んだ。
 台風の目、一時(いっとき)だけの平穏だ。

 (まだら)の光で照らされた街は、独りで見るにはもったいないくらいに美しい。
 カメラはちゃんと機能し、シャッターボタンを押すと小気味よい機械音が響く。