台風は正午から接近し、三時くらいには山の真上を通過する。
 それが撮影にはベストのタイミングだろう。

 待ち時間を潰すために、シャツの下、ベルトに差して持ってきた日記帳を開く。
 十二日の君は、どんなだっただろうか。

 幾度も読み返したから、実のところすっかり覚えてしまったけどね。
 君が亡くなって一年半。
 おかしいだろ。

 大切な思い出を辿った一年だった。
 いきなり過ぎるだろ。

 一際激しく吹き込んだ風が、ページをバサバサと捲ったかと思うと、日記帳を展望台の外へと吹き飛ばす。
 やめろよっ!

 慌てて追い掛けたボクは日記帳こそ取り戻したものの、勢い余って頭から転んだ。
 ぬかるんだ地面に叩き付けられて、服は汚い茶色に染まる。
 髪から(したた)る泥水も(ぬぐ)わず、カメラと日記帳を胸に抱えて、屋根の下へと急いで戻った。

 転びながらもカメラは(かば)ったので、壊れていないはず。擦りむいた肘からは、血が垂れているけども。

 それよりも日記帳だ。
 シャツ同様、泥にまみれた日記帳のページを、泣きそうな思いで開く。