目をそらしていた迫田さんに目を合わせて

「すみません、柄にもなく緊張してるみたいです」

ぎこちなく笑う私に

「大丈夫だ。
見合いは、弟の知基がすることに決まった。
俺より知基の方が歳も近いし、何より知基の方がこの話に乗り気だったからな。

どうにかして彼女連れてこいってずっと圧かけられてたから朋葉が引き受けてくれて本当に助かった。
ありがとな」


「いえ…。私なんかがお役に立てて良かったです…」

「あぁ、本当に助かってる。
でもその敬語はもうやめてもらおうか?
恋人なのにおかしいだろ。それに…名前、迫田さんはなしだぞ?ほら、練習だ。朋葉、言ってみろ。俺のこと呼んでみろ」

「うっ…」

急に意地悪く私に迫る迫田さんに、私の心臓が不規則な鼓動を刻み始める。


「大知…さん…」

消え入るような小さな声に、迫田さんは顔をしかめ

「聞こえないな。はい、もう一度。
朋葉、俺の言葉を繰り返せ。

"大知さん、大好き、愛してる、ずぅーっと私を離さないで" はい、リピートアフタミー!」

「えぇっ!?
そんなこと絶対に言いませ…うっ…。
いっ、言わないからっ!

からかわないでよ、大知さん!」

顔を赤くして声を張り上げた私を見て迫田さんはくすりと笑い

「うん、そのいきだ。
少しは緊張ほぐれたか?さぁ、そろそろ行くぞ。
大丈夫だ、朋葉は隣で俺の言うことに頷いて笑っていればいい」

繋がれた手に再び早まる胸の鼓動に、もはやこれは緊張しているせいじゃないと自覚する。

あぁ、駄目だ…。この感覚、私はたぶんこの人に惹かれ始めている。

好きになってはいけないのに、この大きくて暖かな手をいつまでも握っていたいと望んでしまう。

早く、早くこの仕事を終わらせよう。

優しく私に微笑みかける、彼の笑顔に勘違いして心が捕らわれないうちに…。