今日この庭園は貸し切りになっている。

どこぞやの御曹司とお嬢様のお見合いが入っているからだ。

おじぃちゃんと私が手掛けているこの庭で、心を癒やされながら今日出会う二人が幸せになりますように。

そう願いながら心を込めて植木たちに水をやり、傷んだ葉たちを摘んでいく。
腰を痛めて来れなくなったおじぃちゃんの分まで、朝日を浴びだした木々たちに話しかける。

「さぁ、今日もあなた達の素敵な姿を見てもらって。今から魔法をかけるわよ。

ビビディバビディブー!

うん、今日もあなた達美人にイケメンよ。
みんな今日も元気に輝いてね」

うん、今日もみんな元気。いい顔してる。
色艶もいい。

庭園を見渡してゆっくり歩きながら仕事のやり残しがないかを確認する。
静かなひとけのない早朝の屋上。
この空間を独り占めできる最高の時間。
立ち止まって大きく深呼吸した時、その声は突如背後からかけられた。

「…おい…」

「ひっっ!!」

びっくりして腰を抜かす。
よく知るその言葉通りの人を目にしたことなど一度もないが、今、まさに私はびっくりしてその場にへたり込み、背後の声の主を振り向いて見ることができずにいる。
そう、腰が抜けて座り込んでいるのだ。