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相楽に朋葉を頼んで車を飛ばして実家に向かう。

危なかったな。
いろんな意味でなんとかギリギリ間に合った。

三井財閥のご令嬢との見合い話が持ち上がった時には本当に冷や汗が出た。

それは丁度、ようやく見つけた彼女にどうやって近づこうか思案していた矢先だったからだ。

恋人も作らず仕事に没頭している俺に、祖母から再三「そろそろ身を固めたらどう?」と見合い話をちらつかせられていて、恋愛も結婚も今は興味がない俺にとって迷惑な話だった。

のらりくらりと曖昧にかわしていた俺に、祖母がついに痺れをきらし、今日の見合いを勝手に決めてきたのだ。

「ちょっと待って下さい!
見合いは困ります!その…今まで隠していましたが、結婚しようと思ってお付き合いしている女性がいるんです」

とっさについた嘘だった。
ただ、今はまだそんな間柄ではないが恋人にするのも結婚も、彼女以外は考えられないと俺は思っている。


「あら、全然気がつかなかったわ。そういうことは早くおっしゃい。そんな方がいるのならすぐに紹介しなさい。
それならこのお見合いは、知基で進めます」

弟に矛先がむき、ホッとしたのもつかの間、俺の嘘を見透かすように祖母はニッコリ笑い

「たたし大知、このお見合いの席にはあなたも同席してもらいます。
いい機会ですし、その女性を連れてきてみんなに紹介なさい。

でも…。

あなたが万が一どなたも連れて来なければ、その時はあなたにこのお見合いしてもらいます!
いいわね?大知。
ホホホ」


ホホホじゃねぇよ!くそ婆ぁ!

アプローチの方法を思案する猶予なんてなくなった。

さらに悪魔の宣告を祖母から言い渡された俺は、翌日から海外出張を命じられて…。

彼女に近づくチャンスもいいよる暇さえなくなってしまった…。

「はめられた…くそ婆ぁぁ!」

こうして俺が出張から戻ってきたのは見合い前日、そう昨日の夜だった。