「迫田さん、朝から随分と召し上がるんですね」

迫田さんが腰を下ろした正面に私も座り、テーブルいっぱいに広げられた食べ物を見つめると

「いや…俺はコーヒーだけで十分だ。
朋葉は…。
この中に食べたいものあるか?
何が食べたいか聞いていかなかったからさ…」

「えっ…?」

コーヒーを手にした迫田さんは、そのまま長い足を組んでソファに深く座り直すと、コーヒーを口元に運び手にした新聞で顔が隠れた。


「食べれそうなのあるか?
飲み物も、コーヒー飲めない奴もいるから一応ホットコーヒーとミルクティーと…。
あとは、仕事の後だからホットより冷たいほうが飲みたいかもしれないからオレンジジュース…」

ボソボソ新聞越しに話す迫田さんはいったい今どんな表情(かお)をしているのだろう。

本当は優しくて照れ屋な人なのかもしれない。

だって…。

逆さまな新聞なんて読んでいるはずもなく、彼はきっと私から顔を隠したかったんだろう。

一瞬だけ見えた耳が、微かに赤かったから。