あぁ、なんでこんなことになっているんだろう…。

オフィスビルの高層エレベーターに乗せられた私は、48階SAKOTAリゾートの副社長室に閉じ込められていた。

「朝飯買ってくるからここで待ってろ」

逃げ出さないようにと鍵を閉められ、応接室のソファーに身を沈めて頭を抱えていた。

「はぁぁ、なんでこんなおかしなことになっちゃったんだろう…」

あの迫田さんの様子だと“うん“と言わない限り解放してはくれないだろう。

だいたいお見合いを断る為の恋人役なんて今日1日だけですむ話なのだろうか…。

男性に免疫のない私には、恋人役なんて近い距離は、迫田さんのようなイケメンは目の保養を通り越してもはや目の毒でしかない。

あの顔で優しく微笑まれたりなんかしたら、私の心臓なんて瞬殺で破裂することは間違いない。

今は強引で自分勝手な彼は、人として私の中で最悪最低な人物だけど…たとえそれが演技だって理解してても特別扱いなんてされたら私だって勘違いするかもしれない…。

先程の守衛さんとのやり取りを思い出してかぁぁと私の頬が熱をもつ。
慌てて頭を左右に振って、迫田さんの甘い台詞を頭の中から追い出そうとしたが、そう思えば思うほど強烈に映像までが浮かんでくる。

「やだっ!なんで思い出すんだろう!あんなこと彼にとってはどうってことないのに。

どうせいつも…

あんな台詞もあんな顔も、息をするようにさらりと言ってるのよ。迫田さんもてそうだもん…」

思わずため息をついた自分にはっとする。

「やだやだ!!
なに気にしてるの!あんな俺様で失礼な奴のこと考える必要なんてないじゃない!」

うん、そうだ。
迫田さんとは今日1日だけ。今日だけの約束すればいいのだ。
あの様子だと私が恋人役を引き受けない限り、ここから出してくれないだろう。

大丈夫、こんなオフィスビルの上層階で働く彼とはもう会うことなんてないはずだ。

草木を相手にしている私には…こんなスーツを着てSAKOTAリゾートの副社長という立場の彼は雲の上の別世界の住人なのだから。

私みたいな一般庶民が知り合う人ではない。

たぶん、神様の気まぐれで一緒にいる空間が一瞬交わってしまっただけ。

今日限り2度と人生が交わることはないはずだから…。