哀恋の先で、泣いて。

「こんな、だっさい終わり方嫌だよ……な。俺、楽しかったよ、1年半。楽しかったよ、椿のおかげで」
「私も楽しかったよ、本当に楽しかったよ」




椿、と呼んでもらえることも、麻弥と呼ぶこともきっときっとないだろうし、何度も呼び合った名前を呼び合うことはないだろうし、逆にあってはならないと思った。

身体が壊れてしまうのではないか、と思ってしまうほど強く抱き合って、身体を離す。




「麻弥、ちゃんと幸せになって、」
「椿も幸せになって」



「うん」と言って泣きながら笑った、泣きながらしか笑えなかった。

大好きだったって言って別れた。
幸せになってって言って別れた。
ばいばいって言って別れた。



遠ざかる背中を見ていたら、いままでの思い出が走馬灯のようにかけめぐって、泣きそうになったけれど、涙を堪えて前を向く、そして反対方向に歩き出す。

もう絶対に交わらない、こうやってどんどん離れていくのだろうって思いながらひとつしか伸びていない影を見て歩き続けた。




まだわからない未来に向かって、きっと笑っているだろう未来に向かって。




すきになってくれてありがとう。

たくさんたくさん笑ってほしい、私じゃない人の隣で、幸せになってほしい。


だけどわがままを言うのなら忘れないでほしい。いつかちょっとだけ、あんなこともあったなと思い出してほしい。記憶の端でいいから、きみの思い出の中にいられたら幸せだなと思う。

未練がましいかもしれないけれど、そう思う。

こんなにも悲しい思いをしているから、今は考えられないけれど、いつか優しい気持ちで振り返ることが出来たのなら、今の私たちは救われるだろう。



別れるなんて言わなければまだ隣にいられたのかな、だけど彼の気持ちは変わらなかったのかな、やっぱり戻りたいな、追いかけたら間に合うかな、また笑ってくれるかな、あの頃のように戻れるのかな、大好きだった彼と過ごせる日々が戻ってくるかな、っていろいろな気持ちが溢れた。



覚悟を決めて言ったのに、私はまだ強くなかった。復縁なんて、何年後かに再会してなんて、そんなことを考えてしまうくらいには。

そんなこと言いたかったわけじゃない。一番今、言わなければいけないことは、しなければいけないことは、






ばいばい、麻弥。
きみが新しい道を進めるように、
その道を作ってあげることだった。









──哀恋の先で、泣いて。








END