「椿沙ってさ、もしかしてあんまり結婚に興味ない?」

「そんなことないよ」

そう言ってはいるけれど、彼女の興味は容器にへばりついたムースをかき集めることに向いていた。

「そんなことはないけど……あんまりちゃんと考えたことない」

碧はソファーに肘を置いて頬杖をついた。
ぬいぐるみのかめるんを抱きしめ、顔だけは真剣にテレビ番組を見つづけるが、頭には何も入って来ない。
先週注文を終えた”クリスマスプレゼント”は、今からでもキャンセル可能だろうか。
函館のホテルは、まだ空きがあるだろうか。
そんなことばかり考えていた。

「こっそり指輪用意するとき、サイズってどうやって計るのかな?」

「寝てるときにでも調べるんじゃないの」

「どうやって?」

「パンの袋しばっておく、金色の針金みたいなやつ巻くとか、いろいろあるでしょ」

「でも、指の根元より関節の方が太かったら、入らないよね?」

「最終的にはサイズ直しする」

「へえ~」

ハッとして椿沙の顔を見ると、にっこりと笑い返される。

「…………………腹立つ」

「だって、あからさまに態度おかしいんだもん」

碧は頭を抱えて、かめるんに突っ伏した。
その耳に、テレビの音にまぎれそうな、ちいさな声が届く。

「やっぱり、函館の夜景より、指輪がほしい。碧からもらえるなら」

顔を上げた碧が見たのは、スプーンを口に運ぶ椿沙の姿だった。
とっくになくなっているはずのショコラムースを、しつこく食べつづけている。
その横顔は耳まで真っ赤に染まっていた。

ふっと息を漏らし、碧はそれを見逃してやる。

「ゴミはゴミ箱に」

空のカップを取り上げると、椿沙は不満そうに口を尖らせた。
それをそのまま口に含む。
椿沙からするチョコレートやケーキの甘さは、なぜだか全然気にならない。