ハルカは僕達から2週間遅れで帰省から戻って来た。

「花火行こう!!」

 帰って来たハルカは唐突に宣言した。

「彼氏と行かないのか?」

 8月の最終の土日にある祭り。祭り自体は土日の2日間だが、メインは日曜日にある花火大会だ。

 全国的に見れば大した規模ではないが、この辺りでは1番大きな祭りでそこそこ人も集まる。

 当然、恋人のいる人間にとっては一大イベントだ。なので去年はハルカも『一樹さんと花火行ってくる!』と鼻息を荒くして出て行ったのを覚えている。

「一樹さんは仕事でいけないの!だからカナタは代役!」

 ハルカの側に居るためならどんな痛みでも耐える。その覚悟は勿論変わっていない、それでも痛みが無くなる訳じゃなく、微塵も容赦なく心がえぐられる。

「はいはい、それは光栄です。役者不足ですが、精一杯代役をさせていただきます」

 痛みを覆い隠す為にわざと戯けた口調で、顔を見られないように大げさに頭を下げて見せる。

「うむ、苦しゅうない、心して臨むがよい」

 そんな僕に合わせて、ハルカは胸を外らせて鷹揚に頷いた。

 こうして普通の兄妹では、おそらくあまりない花火イベントはつつがなく決定した。

 


 指折り数える程もなく当日がやって来て、ハルカの指定した駅の北口で、約束の5時の少し前に僕はやって来た。

 同じ家に住んでいるのだから一緒に出ればいい、とゆう僕の主張は刹那で却下された挙げ句、邪魔だから出て行けと昼過ぎに家を追い出された。

 仕方無く駅ビルを当ても無くぶらついたり、南口の公園でぼーっとしたりして時間を潰し今に至る。

「カナタ」

 約束の5時になろうかとゆうタイミングで声をかけられ、僕は頭をそちらに向けた。

「・・・」

 予想はしていた。

 祭りだし、花火だし、夏だし。

 何より待ちぼうけをしている間に少なからず目にしていたから。

「ちょっと、なんか言ってよ・・」

 照れて視線を逸らすその仕草で、髪に挿してあったかんざしが目に入った。

「あ、ああ・・」

 そう、予想はしたいた。

 追い出されたし、きっと浴衣でも着て来るのだろうと。

 だが、ハルカの浴衣姿は予想を遥かに上回った。

 元々ハルカは洋服は好きだが、浴衣は殆ど着た事がない。

 小学校ぐらいまでは、母親が着せたがった事もあり、何度か見てはいるが中学に上がってからは面倒くさがり着なくなった。

 つまり、女の子から女性に変わってからは着ていない。

 だから、控え目に言って水色に花びらの模様が入った浴衣はこの世で1番ハルカが似合うと思ったし、大袈裟に言えばいつもは下ろしている髪を結い上げたハルカは誰よりも綺麗だと思った。