「各自復習をするように」
先生が教室を出れば生徒も道具を片付けて教室を後にする。今日昼はどうするんだけっな…食堂だったか…チャットを開いてダイレンに聞いてみる。
「よっ」
「カナト」
「今日放課後ちょっと付き合えよ」
カナト。この人は平族の仲で一番中がいい友人。一言で言えばイケメン。
「なにすんの?」
「俺の好きなブランドの服屋ができてさ」
また服ですか。昨日7着買ったよな…?
「空けとくな」
「おっしゃ!ありがとな!」
まぁ、オシャレがカナトの取り柄みたいなものだらな。
そうだ、いい忘れてたんだけど、クラスはいろんなヒトがいるけど、種族によって受ける科目がバラバラだから、授業クラスは別にあるんだ。だからどう種族でも友人が出来やすいようになってるんだ。
「あれ…ライダス‼」
「おぉ、ユウ。おはよ」
大遅刻でも眠そうな目を一生懸命開けている。そんなに眠いならまだ寝ていればいいのに…そして不覚にもかわいいと思ってしまう俺がいる。
「今何時限目?」
「さっき一時限が終わった所」
「そっかぁ…じゃあ次は休み時間だぁ」
「じゃあ寝てなよ」
「そうするよぉ…おやすみぃ…」
ここで寝るな、風引くぞ…


「結界張りの教室?」
「うん。扉は開くんだけど中に入れない教室があるんだって」
午前の授業が終わって食堂に集まって六人掛けのテーブルについた。赤いジュースを飲み干してライダスが結界張りの教室の噂を話しだした。
「その結界ってどの種族の?」
「確かねぇ…あ、妖族だって」
「妖族…ツユアカリは結界解いたりできねぇの?」
「で、できるわけないじゃない!」
妖族の結界は魔族の結界より強度があるらしくて、魔族はもちろん、あまり力を持たない妖族も結界は解けないらしい。
「あ、アカギリ!!」
昼食を食べ終えたのかアカギリさんの周りには食器類が浮遊していた。
「なんじゃ…ツユアカリ」
「結界張りの教室の結界を破ってほしいの」
なんだそれは、という表情で俺を見てきた。なぜ俺を見る。
「そうじゃん、アカギリさんって妖族なんだよな?」
「そうだが…お前は誰だ…」
「俺は魔族のダイレンだッ‼」
「結界破りできるの?おねーさん」
「結界の種類にもよるが…詳しく聞こうか」
ライダスが結界張りの教室の話をすると、眉をひそめていた。
「いつからその結界はある?」
「んー…四ヶ月ぐらい前だったはずー」
「ふぅん…なるほどねぇ…ちょうどそのぐらいの時期はずじゃ。辻褄が合うな…」
辻褄が合うってことは…アカギリさんの仕業なんじゃ…
「ユウ、その結界張りの教室に案内してくれるかい?」
「え、俺⁉」
「平族のお前を好む奴が多いからな。すんなり破れるやもしれん」
「ちょっとまって…それって」
ツユアカリが顔を真っ青にしている…そんなにやばいことなのか…?
「四ヶ月前からなら"ゲート"になっていると考えるのが妥当だ。魔族や獣族が破れぬ結界なら尚更だ」
「その"ゲート"ってやつを放置してたらどうなんだ?」
「この学校は悪鬼に支配されるじゃろうなぁ。早い所閉じなければ取り返しがつかなくなる」
重い空気の中、青ざめたカナトが走って来た。
「おい、結界を破れる奴はいねぇか‼」
「カナト!?」
「やべぇんだよ、平族の奴らが喰われてるんだ!!!」
「それって…結界張りの教室?」
「先生達すら相手にならねぇ…」
そんな…先生達が相手にならないなら俺はもってのほか、かなうやつなんているわけ無い。本当に悪鬼に支配されるのか…俺達は…

「私が相手をしよう」
「先生達がかなわねぇって言ってんのにお前が相手にできるかよ」
「だが、お前が敵う相手ではない」
「ダイレン、アカギリ、落ち着いて…」
ツユアカリがなだめようとするけど、まるで聞こえていない。
「ね、あれってさ…平族の転校生ちゃんじゃなぁい?」
ライダスが指差す方向には平族のはずのアオイさんが、生徒を引きずりながらこっちに向かって、微笑んで歩いて来ていた。
「ダイレンくーん」
"よろしくね"
朝からの光景が頭をループしていた。今目の前にいるアオイさんはまるで…鬼…
「嘘だろ…アオイちゃん…平族じゃねぇの…?」
「お前は下がってろ。お前がかなう相手じゃない。」
フリーズしているダイレンを押し倒してアカギリさんが俺達の周りに守護の結界を張ってくれた。
「だ、ダイレン…」
「はは…またかよ…俺が本気で好きになるやつはみんなこうだ…」
「ダイレン、悪鬼が好きなのはヒトが絶望の縁にいるときなの。いくらアカギリが守護の結界を貼っていてくれても、ダイレンの絶望のオーラが結界が破られるからしっかり自分を持って!」
「…」
ツユアカリの声掛けもまるで届いていないようだった。ダイレンの目には光がなく、体が硬直していた。
「なぁに?なんで結界なんて張ってるのぉ?」
ピシッと触っただけで結界にヒビがはいった。ダイレンは相変わらず目に光がない。
「平族に成りすますとは、悪鬼もようやく頭が回りだしたか」
「妖族…なぁんだ…仲間じゃない」
アカギリさんがアオイさんの目の前に立ちはだかった。指で何かの合図を示しているけど…どういうことだ…?
「…上弦…そりゃ先生達も相手にできるはずがないか…」
「上弦?」
悪鬼には上弦と下弦と強さのランク付けがされているらしい。上弦はアカギリさんほどの強さらしい。
…アカギリさんってそんなに強いのか…?
「お前と同等に扱うな。地獄育ちの悪鬼に同士と思われるほど落魄れてはおらん。」
「偉そうにぃ…妖族なんてみんな悪鬼じゃない!」
「…二度とその口が開かない事を望むか。叶えてやる。」
その言葉を放った直後、アオイさん…悪鬼は氷漬けになっていた。
悪鬼は凍ったまま、アカギリさんが青い炎で跡形もなく消してしまった。が、ダイレンの様子は一向に変わらない。
「動けないのかなぁ…?」
「まだ絶望の縁にいるのかもしれない…」
「もし…もしこのままだったら…」
最悪の場合、悪鬼となってしまう。ツユアカリが苦い表情で伝えてきた。
「嘘だろ…おい…ダイレン…」
「まだ目覚めておらんのか…たわけ」
「アカギリ…ダイレンはもう…目覚めてくれないの…?」
俺も、ライダスもアカギリさんを見上げその答えを待った。が、彼女の口から出た言葉こうだ。
「私ができる事は何もない」
一気に力が抜けてしまった。ダイレンが目覚めない。このままだったら…もう二度と…
「契約…契約すれば助けられる」
「契約?」
「妖族の朱と赤、紅の瞳をもつ妖族と平族が契約すると、等価交換の法則にのっとって代償と同等の願いを叶えられる…でも平族は何も異能力が使えない分身体への負担がすごくかかるの」
俺が…その契約を結べばダイレンは助かるなら契約するけど…代償か…
「アカギリさん。俺と契約してください」
「…代償はどうするつもりだ」
「…わからない。でもダイレンを助けられるならなんだってする。」
「…お前の命をかけてもかい?」
命…なんの取り柄もない俺の命でいいなら。ダイレンを助けられるなら。
「…構わない」
「本気で言ってるの⁉」
「俺と契約してください」
アカギリさんは鋭い眼差しを緩めてため息をついた。
「お前が死んでしまったら正気に戻ったところでまた同じ事の繰り返しじゃないかい」
「あ…」
「毛頭、命を取るなど考えていない。だが、契約すれば平族ではなくなるが…」
「ダイレンを助けられるならなんだっていい」
「気に入った」
その言葉を聞いて俺の意識は途絶えた。


次に気がついた時は見慣れない和室の天井が目に入った。
「どこだ…ここ…」
「やっと起きたかい」
「ダイレンは、どうなりましたか⁉」
落ち着け落ち着けとなだめなられながら、俺が気を失ったあとの事を話してくれた。アオイさんの記憶をアカギリさんに書き換えたらしい。私は簡単に消えるほど弱くはないと。
「気分の方はどうだ。他種族への順応は時間がかかるからねぇ」
「特には…普段通りです」
そう答えればアカギリさんは驚いた顔で本当に大丈夫なのかと聞いてきた。
「なんともない、です」
「こんなに早く順応できるとは…腹は空いてるかい?」
「少しだけ…」
「じゃあ何か作ろう。少し待てるかい?」
はい、と答えれば姿が見えなくなった。…妖族ってすごいな…改めて思った。

「鳥がゆだ。熱いからゆっくりな」
一人用の土鍋に鶏肉と椎茸の入ったお粥だった。蓋を開ければお腹が鳴り出した。
「いただきます」
すごく美味しかった。俺が熱を出したときに母さんが作ってくれた味に似ていた。
「お前の記憶を頼りに作ってみたんじゃが…」
「美味しいです…母さんの味そっくりで…」
「…そうか。それは良かった」


鳥がゆを食べ終えた頃、気持ちも落ち着いた。
「…アカギリさん」
「アカギリでよい」
「…アカギリ、その、ダイレンを助けた時の代償って…」
等価交換の原則って確か同等の対価だってライダスが言ってた気がする。
「あの男を絶望から救いたいといったじゃろ?同等の対価はお前の絶望だ」
「俺の絶望…」
絶望なんかあったか…?あったとしたら何だったんだろう…
「母親が死んだ時の絶望だ。ユウには絶望はそれくらいしか見当たらなかったからな。気の毒だがその絶望を対価にあの男を正気に戻した」
「母さんが死んだ時の絶望…でも、悲しいとは思うけど…」
「どん底に突き落とされるほど悲しいかい?」
…そう言われればそうでもないなと首を横に降った。
「でもある意味良かったのかもしれない。母さんが亡くなったのは悲しいけど、いつまでも抜け出せてなかった気がする」
「そうかい…今夜の夕食は何にしようか」
「アカギリが作るものは美味しそうだからな…」
「上手いこと言うじゃないかい。なら焼き鳥にでもしようかねぇ。狩りたての鳥で作る焼き鳥は絶品だ」
…また鶏肉…