「おかえりー
遅かったね」
「ごめんね、すずちゃん」
それから少し経って教室に戻ると、すずちゃんはご飯を食べ終わっていた。
「いいよいいよ!
なんとなく想像つくし」
「えっ?」
「あんなに張り切ってたんだし、頑張ってきたんでしょ?すっきりした顔してるし」
「すずちゃんっ!」
そういう意味じゃないんだけど!?
まあ、遅れるのを伝えられて良かったから、あながち間違ってはいないけど……
ちらりと漣くんを見れば、表情筋が死んだようにクールな姿に戻っていた。
あんなに表情豊かに笑ってたのに、今は微塵にも感じさせない。
どうやって切り替えしてるんだろう……?
「海凪?はやく食べないと昼休み終わっちゃうよ?」
「うっ、うん」
もう少しで授業だし、普通でいよう普通で。
「漣くん、さっきどこ行ってたの?」
「なんか急いでなかった?」
「べつに」
教室の隅から聞こえた会話。
相変わらず、そっけない……
漣くん、教室内じゃほんと別人みたい。
「次数学?」
「やばい!
板書するの忘れてたっ!」
慌てて途中のお弁当を片付けてノートを取り出す。
今からは授業に集中しなくちゃ!
「まあ、でも……」
「え?」
「……いや、べつに」
ちょうどチャイムが鳴って、教室がまた一気に騒がしくなる。
「海凪っ!
そこ計算まちがってる!」
「えっ、うそ!?」
板書するのに必死だったわたしは気づかなかった。
「目の届く範囲にいないだけでつらいとか、重症だろ俺……」
漣くんがわたしをじっと見て、そうつぶやいていたなんて。



