漣くんがゆっくり顔を上げてこっちを見た。
「っ……」
い、いつから気づかれてた?
5月だというのに、背中にぶるっと寒気が走った。
「……向坂さ」
「は、はいっ!」
「ふっ、なんで敬語?」
!!?
口角を上げてクスッと笑うその姿。
無表情なのはいつものことだし、女の子に対しては尚更のこと。
はやくどっか行け。
なんて心底鬱陶しいって顔されると思ったのに、まさか名前を呼ばれて、普通に会話できるなんて。
というより、わたしの名前知ってたんだ……
そんなの驚かない方がむりあるよ……
固まっていると、漣くんは緩やかに笑った。
「よくここで勉強してるだろ?」
「なんで知ってるの……?」
この公園は、ほとんど人がこない。
ましてや入口から東屋はだいぶ離れてるのに。
どうして……
「遠いな」
「え?」
色々ぐるぐる考えてたら、不機嫌に言われた。
「向坂が遠い」
「は?」
「こっちきてよ」
「ええっ!?」
「なんでそんな驚く?」
「だっ、だって……」



