「大丈夫。
ゆっくりでいいよ」
なるべく優しく語りかけるように言えば、ちょっとは落ちついたみたいで。
少し表情がやわらんだ気がする。
「あっ……えっと、」
「うん」
目線を右に左に、でも必死に言葉を紡ぐその姿に目が離せなくて。
なにこの、変にくすぐったい感じ。
「数学……やってて、」
「数学か。
あー、そこね」
もっと声が聞きたい。
もっと近くで顔がみたい。
ふと湧いて出てきた感情に、無意識にすぐそばまで近づいたら。
「っ、」
小さくて華奢な肩がビクッと上がった。
「……ごめん、すぐ離れるから」
怖がらせた。
あんなにゆっくり話そうと言い聞かせてたのに。
「……」
ここにいないほうがいい。
今自分が近くにいたら怖がらせるだけだ。
元々いい風に思われてない。
黙ったままの向坂からとにかく離れようと席に戻り、カバンを持って教室を出ようとしたら。
「……まっ……待って……っ!」



