旭君は、私の手首を掴んでいた手を離す。

「ひまり」

それから、優しく私の名前を呼んで、

「痛っ」

両方の頬っぺたを摘んで軽く左右に引っ張った。

「ちょ、旭君っ」

「バーカ」

今度は反対に、手の平で挟んでムニュッと押し潰す。

「ひ、酷っ」

「アホ」

「ア、アホ?」

「考え過ぎ」

「だ、だって…」

「つか、俺らレベル一緒だからな」

旭君は頬っぺたから手を離すと、優しく目を細めた。

「変なこと考えてんじゃねぇよ」

「旭君…」

「俺らは一緒なの。普通でいんだよ」

「でも、私…」

「ひまり」

「はい」

「す」

「す?」

「好き、です」

さっきまで飄々としてた旭君が、クシャッと顔をしかめる。

「こっちだってなぁ、余裕なんかねんだよ。お前のことばっか考えてるし、色々もっと上手く…」

「…」

「知ってんだろ?俺が嘘吐きだってこと。余裕なんかあると思ってんの?」

「…思わない」

「だったら、気にする必要ねぇから。ひまりはひまりらしくしてりゃいーの」

「うん」

「よし」

「旭君」

「ん?」

「ありがとう」

フワッと自然に溢れた笑顔、旭君は目を細めて私を見る。気が付いたら、もうちゃんと旭君の目を見れている私がいて。

胸のドキドキは変わらないんだけど、旭君の少しだけ気持ちが落ち着いた気がする。

「旭君」

「…」

「旭君?」

今度は旭君の様子がおかしい。フイッと顔を逸らして、スタスタと行ってしまった。

「ちょっ、旭君待ってよーっ」

「いいから行くぞ」

「どうしたの急に」

「何もねぇ」

「そんな風に見えないよぉ」

「いーんだよ」

それから旭君に何回聞いても、何も答えてはくれなかった。