嘘吐きな王子様は苦くて甘い

ーー

「ひまりー?いい加減起きなさいよー?夏休み入ってからずーっとダラダラしてるんだから」

コンコンドアがノックされて、すぐにガチャッという音が聞こえる。

「おはよう、ひまり」

「…おはよ」

「ねぇ、調子悪いの?」

お母さんは、私の額に手を当てた。

「んーん、大丈夫」

「夏バテ?今日、ひまりの好きなちらし寿司にしよっか」

「うん、ありがと」

「さっきは起きなさいって言ったけど、辛いなら寝てる?」

「大丈夫、起きる」

「じゃあ下で待ってるから。食欲なくてもスムージーだけでも飲むのよ?フルーツいっぱい入れるから」

「ありがと、お母さん」

お母さんはもう一度私の額に手を当てると、部屋を出ていった。

完全に心配かけちゃってるなぁ、私。

朝だっていうのに爽やかさのかけらもない気怠い体をのっそり起こして、私は着替えを始めたのだった。









結局誰にも話せないまま、夏休みに突入した。あれから夜になると毎晩涙が出て、辛くて自分の部屋の窓から旭君の部屋をカーテン越しに眺めるって日課もできなくなって。

旭君とスマホでメッセージのやり取りなんてあまりしないし、私が玄関からこっそり旭君の出るタイミングを見計らってないと会うこともない。

夏休み前の何日かは朝私を迎えにきてくれたけど、準備ができてないからって断った。

帰りは菫ちゃんに声をかけたり、活動日でもないのに家庭科室によったりして誤魔化して。

もう前みたいに、話し合いしようって気持ちが今はどうしても持てない。旭君の顔見たら、一瞬で泣いちゃいそうで。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

顔を洗ってスムージーを飲んでると、チャイムが一回鳴った。

「はーい」

お母さんがパタパタと玄関へかけていく。

「あら、旭君」

ブッ、と口からスムージーを戻しそうになった。

「ちょっと待っててね」

急いでスムージーを持って二階に上がろうとして、

「ひまり?旭君来てるよ」

呼び止められてしまった。

…仕方ない。こうなったら覚悟を決めよう。会いたくないなんて言ったらお母さんが何かあったんじゃないかって思うだろうし。

笑顔、とにかく泣かないようにだけしないと。

気持ちを少しでも落ち着けようと、私は冷たいスムージーのグラスを頬っぺたに当てた。