仕事納めの日。鈴と達也は久しぶりに一緒に会社を出た。


「1年間、お疲れ様でした。神野係長。」


達也が退勤手続きを済ませて、通用口を出ると、鈴がいたずらっぽい表情でそう言って、出迎えた。


「ありがとう。鈴も本当に1年間、よく頑張ったな。お疲れ様でした。」


達也もそう返すと、満面の笑みになった鈴が


「帰ろ。」


と言って、そっと腕を絡めて来る。そんな妻に、達也も笑顔を送り、2人は歩き出す。


「久しぶりだね、こうやって一緒に帰るの。」


「そうだな。」


「今年に入って、特に後半、私がずっと忙しかったから。達也にすっかり迷惑を掛けちゃった。ごめんなさい。」


「鈴が身体を壊さないか、心配だったんだけど、よかったよ。」


「達也がフォローしてくれて、本当に助かった。感謝してます。」


「いえいえ。」


そんなことを話しながら、駅に向かう2人。今日は仕事納めでもあり、ディナーでもと達也は思っていたのだが


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、今日は早めに帰って、2人でゆっくりしたいな。だって、今年はクリスマスも落ち着いて、出来なかったんだもん。お夕飯は、お寿司でも買って帰ろうよ。」


という鈴の希望で、真っすぐ帰宅することになった。


そして、ささやかな寿司パーティー、夫婦水入らずの忘年会が始まった。


「今日は相向かいじゃなくて、隣がいい。」


そう言って、横に腰掛けた鈴は、達也に身体を擦り寄せて来る。もう甘えモード全開だ。


「お疲れ様でした。」


ビールを注ぎ合って、乾杯。


「お寿司、美味しいね。」


「うん、ちょうど作りたてが売ってたからな。」


「私、この貝苦手だから、達也の玉子と交換して。」


「玉子でいいのか?」


「うん、甘いから。」


「お子ちゃまだな。」


「酷い。」


そんな会話をしながら、2人きりの時間を楽しむ。それは幸せな時間だった。


やがて、お腹も満たされ、ほんのり顔を赤くした鈴が、達也にしなだれかかるように、身体を預ける。肩を抱いて、達也は鈴と見つめ合う。


「来年は、事務の方に戻れそうって言ってたけど、どうなんだ?」


「うん。プロジェクトも無事終わって、一段落なんだけど、やっぱりまだいろいろあって、完全にお役御免ってわけにはいかなくて・・・。」


「そっか・・・。」


「部長が妙に、営業としての私の力を買ってくれてて。それはそれで嬉しいけど、営業専任になるのだけは絶対断るから。もしそうなったら、ますます帰りが遅くなって、ますます達也とのすれ違いが拡大しちゃう。そんなの、絶対嫌!」


「鈴・・・。」