更に3日後、今度は達也を含めた3人の席が設けられた。


達也から、改めて結婚の報告と挨拶を受けた大輔は


「私のような者に、このような丁重なご挨拶をいただき、感謝の言葉もありません。父親面して、何か言える立場じゃありませんが、娘をよろしくお願いします。」


そう言って、慇懃に頭を下げた。


それから夕食を共にしながら、しばし歓談した3人。席もお開きに近付いて来た時、鈴が言った。


「お父さん。達也さんとも相談したんですが、是非、式には、私の父親として、列席して下さい。」


「僕からもお願いします。」


達也もこう言って、頭を下げたが、大輔は静かに首を横に振り


「お心遣いいただき、心から感謝します。しかし、私はおめでたい席には、やはり似つかわしくない。妻・・・失礼、鈴の母親も今更、私と夫婦の真似事をさせられるのも、迷惑でしょう。私はこのような席を設けていただいただけで十分。当日は、別の場所からお2人をお祝いさせてもらいます。」


と固辞した。そこに大輔の強い意思を感じた鈴と達也は、それ以上の説得を遠慮した。


そして、レストランを出て、挨拶を交わして、左右に別れて歩き出そうとした時


「達也さん。」


と思いついたように、大輔が声を掛けた。


「はい。」


振り返った2人に


「私は父親として、娘を母親のような女性にだけはなって欲しくない。そう思って、育てて来ました。」


と大輔は言った。言葉を失う達也の横で


「お父さん。」


たしなめるように鈴が声を上げる。しかし、意に介さぬように、大輔は続ける。


「しかし、私は自らの不始末で、この子が14歳の時に、父親を廃業せざるを得なくなった。以来、今日まで、鈴を愛しみ、育てたのは、間違いなく、この子の母親です。」


「はい。」


「久しぶりに鈴に会って、わが娘ながら、本当にいい子に育ってくれたと思っています。」


そう言って、微笑んだ大輔は


「鈴はどこに出しても恥ずかしくない、自慢の娘です。どうか、可愛がって下さい。」


と頭を下げる。


「はい、心得ております。」


そう答えた達也も頭を下げる。


「そして、この子をここまで育てた、母親のことも、あなたのご両親の次で結構ですから、大切にしてやって下さい。」


「もちろん、お母さんも、そしてお父さんも自分の両親と同じ、僕の親だと思っています。」


達也のその返事に、一瞬驚いたような表情を浮かべた大輔は、


「ありがとう。」


そう言って、穏やかな笑みを返すと、踵を返した。


「お父さん!」


鈴のその呼び掛けに、しかしもう、大輔は振り返ることはなかった。