翌日から、鈴は平静を装い、真面目な実習生として過ごしていたが、今、同じ建物の中に、達也がいるんだと思うと、胸が熱くなるのを、抑えることが出来ない。


あれから、達也と遭遇することはない。所属する部が違うと、こんなにも会わないものなんだと、内心驚きながら、と言って、入社ひと月足らずの新入社員が、他部の先輩に、いきなりアタックする図は、怜奈の言う通り、どう考えても好意的には達也本人にも、周りからも受け取られないだろう。


鈴は悶々とした時間を過さざるを得なかった。


内心にそんな葛藤を抱えていることを、周囲には、なんとか悟られないよう、鈴は懸命に、香織に付いて、実習に励んだ。


「鈴は黙々と努力するタイプだね。ちょっとそそっかしいのが、玉にキズだけど。」


香織からは、そんな言葉をもらった。


「そうなんです、このそそっかしささえ直れば、自分で言うのもなんですけど、結構頑張れそうな気がするんですけど・・・気を付けます。」


恋愛も大切だけど、恋愛の為に就職したんじゃないことは、鈴ももちろんわかっている。


とは言いながらも、総務部の同期から、さり気なく達也の情報をゲットする努力も怠らなかった。


達也は香織同様、総務部で新人研修リーダーを務めている。


「神野先輩は優しいよ、教え方もソフトだし。それに私達、何度か呑みに連れてってもらってるし。」


総務部の同期、上本(うえもと)ひなたは、そんなことを言っていた。また


「先輩は独身、彼女もいないって言ってた。」


との情報も、もたらされ、それには鈴はホッと胸をなでおろした。


その一方で気になることも。


「私たまたま、神野さんと大学が同じなんで、仲良くさせてもらってるんだけど、話を聞いてると、あんまり恋愛に興味なさそうなんだよね。」


とは香織の言。えっ?それは困る・・・と思ったのが、顔に出たらしく


「あれ?鈴はひょっとして、神野さんに興味あるの?」


といたずらっぽく聞かれたから


「いえ、とんでもありません。」


とブンブン首を振った。そんな鈴を意味ありげな表情で見た香織は、でもそれ以上は、何も言っては来なかった。


そうこうしているうちに、GWが迫って来た。


「GW明けからは、みんなもいよいよ本格的に、現場実習だからね。羽を伸ばすのは、仕方ないけど、伸ばし過ぎないように。」


香織からは、笑顔で、でもしっかり釘を刺された。