「達也に『俺に気が付かれなくても、踏みとどまれたのか』って、問い詰められても答えられなかった。最終的には踏み止まれたと自分では信じてるけど、でも自信ない。当時も、実は今も。本当に酷い女だと、自分でも思ってる。」


そう言って鈴は悲し気に、怜奈を見る。


「でも、非難されるのを承知で言えば、達也はやっぱり私の運命の人だったんだなって、今は思ってる。だってバレちゃったんだもん。」


「えっ?」


「私は高橋さんと会ってることを、当然だけど、達也に隠そうとしてた。自分で自分の気持ちにきちんと収まりつけて、達也の元に戻りたいと思ってたから。でも、あのままなら、ひょっとしたら、取り返しのつかないことになってしまった可能性は否定できない。だけど、彼と会ってるところを雅紀さんに見られたことで、全ては露見してしまった。それが、私が踏み止まれた大きな原因になったのは、間違いないんだよ。やっぱり不倫なんて、まして達也と離れることなんて、私には出来ないって思い知ったんだよ。神様がバカなことをするな、考えるなって言ってくれたんだと思う。」


「・・・。」


「都合のいいこと言ってるって、呆れてるよね。達也には『鈴が鈴の意思で、俺のところに戻って来なきゃ意味がない』って言われた。果たして、今回それが果たせたのか、自分でも疑問に思ってる。でも1つだけ言えること、それは今の私の心の中には、間違いなく達也しかいないってこと。」


「厳しいこと言うけど、でもそれって証明できないよね。」


ここで怜奈が口をはさむ。やや厳しい顔でそう言った怜奈に


「そうだよね、怜奈の言う通り。高橋さんと一緒に地方出張に行って、本当に何もなかったのかって聞かれても、真実は私達2人しか知らないし、あったともなかったとも証明することもやっぱり出来ないんだよね。」


とため息交じりで答える鈴。


「あの日、私は自分に賭けた。あの時点で、もう自分では目を覚ましていたつもりだったから、もし向こうであの人に言い寄られたとしても、毅然とはねつけられるはずだって信じて、私は出張に行った。結果は・・・実際に口説かれたかどうかも含めて、今は言うつもりはない。言っても仕方ないから。でも達也は信じてくれた、許してくれた。私は本当に嬉しかった。」


「鈴・・・。」


「以来、達也は私を前と同じように、愛してくれてる、抱きしめてくれる。目を合わせて笑い合える。だけど・・・彼は口にも態度にも決して出さないけど、達也の私に対する信頼は1回ゼロになってしまった。それは自覚してるよ、ちゃんと。」


寂しそうにそうつぶやく鈴。


「だから、私は自分の出来る限りのことで、達也の信頼を取り戻していかなきゃいけない。私は営業を外れ、高橋さんもウチの会社とのプロジェクトから身を引かされた。でも、それでもう安心って・・・達也の立場じゃ、絶対にならないよね。だから辞めることにしたの。あんなに引き留められて、嬉しかったけど、私にはあの会社に残る選択肢はなかった。自分のキャリアやプライドよりも、もっと大切なものの為に・・・ね。」


そう言った鈴は、そこでやっと笑顔を浮かべた。