「それで、これから鈴はどうするの?」


それから早くも数日が過ぎた。この日、鈴は高校時代からの親友である怜奈の自宅を訪れていた。


「当面は妊活かな。とにかく30歳になるまでに、怜奈のような可愛いママになりたいんだ。」


怜奈の胸で、スヤスヤと眠る赤ちゃんに視線を送りながら、答える鈴。


「そっか。」


「怜奈より1年も早く結婚したのに、ママになるのは、後れを取っちゃって。正直、ちょっと焦ってるんだ。」


「そんなことに焦りを覚えると、ろくなことないよ。こればかりは何て言っても授かりものなんだから。」


「は~い。」


そこで、会話がいったん途切れ、怜奈はベッドに子供をそっと置くと、また鈴の前に座る。


「でも実を言うとね。」


「うん?」


「まだ仕事行かなくなって、何日も経ってないのに・・・正直違和感ありまくりで・・・。」


とカミングアウトする鈴に


「やっぱりねぇ。鈴はたぶんそうなると思ってた。いくらなんでも1週間もたないとは思わなかったけど。」


怜奈は笑った後


「仕事辞めたの、早まったんじゃない?」


と尋ねる。


「うん・・・。でもそれじゃ、けじめがつかないから。」


「けじめ?」


「物事ってさ、なかなか一方的にどっちかが悪いとかいいとかってないと思うんだけど、今度のことは、ほぼ100%私が悪かったんだもん。」


「鈴・・・。」


「去年の後半、私達夫婦は確かにすれ違いが増えてたけど、それは私の仕事が忙しかったせいで、達也が私を蔑ろにしたわけじゃない。むしろ、一所懸命にサポ-トしてもらったし、それに感謝することこそあれ、不満に思うことなんか全くなかった。」


「・・・。」


「それなのに、私の中で高橋さんがだんだん大きくなって来て・・・。信じてもらえないかもしれないけど、私の心の中から達也が消えたことなんかない。あの人と離れて生きて行くことなんか考えられないし、考えたくもなかった。」


「・・・。」


「なのに・・・高橋さんの存在を心から追い出すことも出来なかった。怜奈にバカなこと考えてるなって叱られても、振り切れなかったし、と言って幸せになることだけ考えればいいんだって梨乃に背中を押されても、踏み出すことも出来ない。そんな自分がわからなくて、どうしたらいいのか、本当に分からなくなっちゃって。」


「鈴・・・。」