そして、訪れた沈黙。やけになったように、ビールを喉に流し込む達也を、飯田はしばらく眺めていたが


「で、改めて聞くが、お前はこれからどうしたいんだ?」


と静かに尋ねた。


「どうするもこうするも、もう離婚するしかねぇだろうよ。」


「鈴ちゃんのこと、諦めるのか?」


「他にどんな道があるんだよ?身体を許したのかどうかは知らないけど、それ以前に心を持ってかれちまってるんだよ。だとしたら、俺みたいなヘタれには、もうお手上げだろ。」


力なくそう言った達也は、またコップを仰いだ。そんな達也をまた少し眺めた後


「お前、いつもそうだよな。」


とやや呆れた口調で飯田は言った。


「飯田?」


「1つ聞きたいんだが。」


「えっ?」


「お前、本当に鈴ちゃんを愛してるのか?」


「何?」


「お前、本当に鈴ちゃんを愛して、結婚したのかって聞いてるんだ?」


そう言って、射貫くような視線で、飯田は達也を見た。


「そんなの当たり前じゃねぇか・・・。」


その視線にややたじろぎながら、答えた達也に


「嘘をつけ!」


飯田が大声を出す。


「飯田・・・。」


「だったら、なんでそんな簡単に諦められるんだ?なぁ神野、お前にとって鈴ちゃんって何だ?お前の奥さんなんだぞ、生涯を共にするって誓い合った人生パ-トナ-なんだぞ。」


「わかってるよ、そんなこと。」


「いや、わかってねぇ。その人生最愛の人が奪われようとしてるんだぞ、離れて行こうとしてるんだぞ。なんで戦わねぇんだよ?なんで引き留めようとしねぇんだよ?」


「仕方ねぇだろう。鈴の心が俺にない以上引き留めたって・・・。」


「心がないって、誰が言ったんだ?鈴ちゃんがお前に直接そう言ったのか?『私はもうあなたより、高橋さんを愛しています』って。」


「確かに言われちゃいないよ。だが、あいつの言動を見れば・・・。」


飯田の剣幕に、しどろもどろになって答える達也。


「お前は自惚れてるんだよ。」


「えっ?」


「俺は鈴に愛されて当たり前だ、鈴が俺を、俺だけを見てるのは当たり前だって。だって俺達は、運命の糸で結ばれてるんだからってな!」


「飯田・・・。」


「結婚ってな、ただ1人の女性を愛し抜くってな、そんな生易しいもんじゃねぇと思うぞ。すげぇ覚悟と根性がいるんだよ。それを俺は・・・真純に教えてもらったんだ。」


飯田は達也を真っすぐ見ながら言った。