冬の花

「あのさ、さっきまで俺の悪口言ってなかった?」

鳴海千歳にそう聞かれ、心臓がドキンとした。

「聞こえてました?」

と言っても、私は何も言ってないけども。

「流石に離れてたから聞こえてないけど。
アイツの顔見てたら分かるよ。
俺が向こうから歩いて来てる時の、
あの嫌な目付き」

「佑樹は本当に嫌な奴なんです。
誰に対しても。
だから、鳴海さんも気にしないで下さいね」

「ふーん。
マネージャーの彼とは親しいの?
仕事だけの関係って感じではなさそうだから」

「親しくなんか!
ただの幼なじみで、ずーと会って無かったんですけど。
たまたまうちの事務所に就職したみたいで、
知り合いならって事で、私の新しい担当に…」

「たまたまね…」

鳴海千歳は、ゆっくりと空いている私の横の椅子に腰を下ろした。

「はい。たまたま…」

鳴海千歳と同じように、そんなたまたまはないとは私も思う。

何の目的で、私にこうやって佑樹は接触して来たのだろうか?

「ネットで見たけど、君って、
何年か前に父親が突然家出して行方不明になっていて、
親戚の養子になってるんだって?
その行方不明の父親に現れて欲しくて、
女優になったんじゃないかって言っているファンもいるね」

「え、はい…」

驚いた。

ネットでその辺りの私の情報が出回っている事は知っていたが、
鳴海千歳がわざわざ私の事をそうやって調べているなんて。

「彼は、ネットに書かれていない君の本当の過去を知ってるんだ」

鳴海千歳のその言葉に、背中がスッと冷たくなった。

なんだか見透かされているみたいで。

そして、佑樹は私の本当の過去を知っていると言う言葉。

佑樹は、私にとって畏怖な存在なのだと改めて思わされた。

佑樹がこちらに戻って来て、
鳴海千歳は立ち上がり他の演者の方へ歩いて行った。

「あの脚本家、なんか感じ悪いよなぁ」

そう呟く佑樹。

こう言う時の表情は昔と変わらない。

一体、あなたは何を企んでいるの?