冬の花

「あ、またこんな所で話してるのかよ」

その声に舌打ちしたいような気分になる。


ゆっくりと振り返ると、北川佑樹(きたがわゆうき)がそこに居た。


彼は幼なじみの男の子で、向かいの家に住んでいる。


そして、私の家は借家で、彼の親が大家さん。


私の家だけではなく、この辺りの土地や建物の殆どは彼の家の物。


だからか、彼一族にこの村では逆らえる人は居ない。


と言っても、彼らに特に何かを命令されたり理不尽な要求をされる事はないけど。


「道の真ん中で、ホント邪魔なんだよっ」


佑樹の性格は生まれ育ったその恵まれた環境なのかなんなのか、とてつもなく偉そうで悪い。


「もっと端に寄ればいいんでしょ？」


私はそう言って、阿部さんの方に少しずれた。


「仕事中に無駄に話し掛けられて、お巡りさんだってウザイの分からねえの？」


その佑樹の言葉に、私は伺うように阿部さんを見た。


「いやいや、話し掛けたのは俺からだから」


阿部さんは笑顔でなんて事ないようにそう答えている。


「警察の人が女子高生と個人的に特別仲良くしているのは、よくないんじゃないですか？」


「ちょっと、佑樹！
阿部さんは別にそんなんじゃ…」


「うん。あかりちゃんと俺は特別そこまで仲良しでもないよ」


その阿部さんの言葉に、グサッと胸が痛くなる。


阿部さんの言うように、彼は特別私と仲良しなわけではない。


彼が他の村の人ともよく話している姿を見掛ける。


阿部さんは社交的なのか、わりと色々な人に自分から話し掛けている。


だから、私は彼にとって特別ではない。