冬の花

「あのオーディションで、群を抜いて君が良かった。
裏で決まってた三浦実奈よりも遥かに。
主役のリコのあのシーンで、悲しみを表現するのは勿論だけど、
怒りを表現したのは君だけだった。
正直、あの演技を見たら、君以外にリコの役は考えられなかった」


そう話す鳴海千歳は、
夕べの印象とは全然違う。


夕べの私を見下した感じはなく、
真っ直ぐに私を見ている。


けど、今、話している事が本当ならば、
何故、夕べ私をこの部屋に呼んで、
いい役の代わりに体を求めるような事を言ったのだろうか?


「ありがとうございます…。
昨日私をこのホテルに呼んだのは、
やっぱり理由があったのですか?」


「んー。
理由って言えば理由?
オーディションで見た君の印象をもう一度この目で確かめたかった。
あの物怖じしない強気な態度。
だから、俺に簡単にほいほいヤらせるくらいなら、
それなら、適当な役でも与えたらいいかってとも思ってた」


「それで…夕べわざと感じ悪くしていたのですか…」


わざと、私を怒らせるような態度だったのだろうか。


私と言う女性を軽視したような、あの感じ。


「いや。
夕べの俺も普段通りだし。
全く君に手を出す気がなかったわけじゃないし。
それに、正直、今も夕べ君に言われた事とか思い出すと腹立つし。
今回のドラマは君にしても、
今後は絶対君を使わないと思うから」


「あの、ごめんなさい!
私、売れたいのもそうですけど、
鳴海さん脚本の作品本当はけっこう好きなんです!
だから、今回の作品だけじゃなく、
この先、貴方の作品に出られないのも嫌なんです」


そう言った私の顔を見て、鳴海千歳は何かを考えるように宙を見ると、
立ち上がり私に近付いて来る。


「じゃあ、俺に抱かれたって事にして。
夕べ、君は俺に抱かれたから今回の役を貰えたんだって」


「抱かれたって、実際はしなくていいんですよね?」


「うん。
ただ、誰に聞かれても、否定しないで。
別に、そうだと肯定はしなくていいから」


「なんでですか?」


「それは、こちらの事情で…」


そう言って、鳴海千歳は私の横に腰を下ろして話し始めた。