冬の花

鳴海千歳は立ち上がると同時に、
テーブルに置いていた財布を手にして、
そこから一万円札を一枚取り出した。


そして、ゆっくりと私の方へと歩いて来る。


「雨酷くなりそうだから、
これでタクシー使って」


えっ、と戸惑う私の手にそのお金を握らせた。


「君をこの業界から消してやろうって気持ちは変わってないから」


そう言って、鳴海千歳はとびっきりの笑顔を私に向けた。


先程迄、本気で怒っているように見えたけど、
今は冷静さを取り戻している。


「…負けませんから」


私はそう言うと、その一万円札を手にして部屋から飛び出した。


ホテルから出て、帰りのタクシーの中、
冷静になって来て、自分がとんでもない事をしたのだと反省した。


枕はしなくても、鳴海千歳に嫌われないように愛想を振り撒く事も出来たはずなのに。


多分、鳴海千歳が恵まれ過ぎている事が、
なんだか腹立ったのかもしれない。


その存在を目の当たりにして。


過去の私と比べて、なんて恵まれているのか。


この業界に入って、色々な映画やドラマを観るようになったけど、
私はわりと彼の作品が好きだったりする。


だから、本音は鳴海千歳の作品に出たかった。