冬の花

「…嫌です…」


「えっ?なんて?」


鳴海千歳は聞こえているのに、
わざと楽しんでいるようにそう言っているのが分かる。


「周りに言い触らしますよ?
鳴海千歳に枕を強要されたって!
言われたくなければ、私にいい役を下さい」


そう言いきって、先程迄の恐怖が吹き飛んだ。


実際に私が殺したわけではないが、
私は父親を目の前で殺される所を見ていて、
その遺体を運ぶのも手伝った。


だから、この人に何を言われても、そんな事くらい怖くなんかない。


「俺を脅す気?
俺を敵に回して、この世界でやっていけると思ってるの?
売れっ子の大女優ならともかく、君みたいな無名の女優が」


その声が、先程迄とは違い温度が低く、
顔は笑っているけど鳴海千歳が怒っているのだと伝わって来る。


「もし貴方に圧力かけられて干されても、私はまたいつか絶対にチャンスを物にしますから」


「そのチャンスは二度とないかもよ?
永久的に俺が圧力かけまくるかも」


「そうでしょうか?
鳴海さん今は人気かもしれませんが、
数年後はどうか分かりませんよ?」


「それ、どういう意味?」


鳴海千歳の声が、また一段と冷たくなるのを感じた。


「貴方のデビュー作、コンクールの最優秀賞を獲って映画化された《君の涙の色》は、
私大好きで何度も観ました。
恋人が死ぬ話でわりとありがちなはずなのに、
色々斬新な展開が多くて、本当に才能の塊って感じで。
だけど、それ以降の作品は面白いけど、既視感のある作品ばかりで。
だから、そのうち飽きら…」


「帰れ」


私の言葉を遮るように、その言葉が部屋に響いた。


その声はそれ程大きかったわけではないのに、
私は怯んだように口を閉ざしてしまった。