冬の花

「とりあえず、家迄送るから乗って」


阿部さんにそう言われ、えっ、とキョトンとしてしまった。


パトカーで送ってくれるの?


「あかりちゃん家、ここからまだ距離あるでしょ。
流石にこの雪の中歩いて帰せないから」


「…あ、はい。
じゃあお言葉に甘えて…」


最初は、悪いからと断わろと思ったけど、
これはまたとないチャンスだと思った。


だって、車内で二人っきりになれるなんて!


私は浮かれたまま、助手席の方へ回り込み、一拍置いてドアを開けて乗り込んだ。


車内は暖房で暖かくて、隣を見るとすぐ近くに阿部さんが居て、
一気に幸せな気分になる。


つい先程迄このまま死んでもいいと思っていた事が嘘みたい。


私の冴えない現実の中で、阿部さんは唯一の癒し。


「外、寒かったでしょ?
それよりも、本当にこんな雪の中出歩いてたら危ないから。
その事分かってる?」


癒しだと思っている阿部さんにそう叱られて、
ごめんなさい、としょげてしまう。


だけど、叱られてもこの今の幸せな状況に頬が綻んでしまう。


「あかりちゃん家は、北川さんの家の方だよね?」


「あ、はい…」


阿部さんには、以前自分の住んでいる場所を話した事がある。


佑樹の家の北川邸は、この辺りでは一番大きな豪邸で、知らない人はいないと思う。


だから、阿部さんにも、佑樹の家の近くに住んでいると話した事がある。


それにしても、このまま送って貰ったら、阿部さんにボロボロの私の家を見られるのか…。


それは嫌だけど、仕方ないか。


阿部さんは、私がシートベルトを締めるのを確認すると、車を発進させた。


車内は静かで、エアコンの風の音だけが響いている。