彼に初めて会った日の事を、
今も覚えている。

秋が終わり、冬に差し掛かる頃。

朝の通学途中、今日は朝からとても寒くて、雪が降りそうだと思った。

私はバス停に向かう為に、その道中にある交番の前を通る。

その時、何気なく交番に目を向けた。

「おはよう」

その人は私と目が合うと、そう挨拶をしてくれた。

新しいお巡りさんだろうか?

そう思い、私も挨拶を返した。

「今日、雪、降るかな?」

嬉しそうなその声に、首を傾げた。

「俺の育った地域では、滅多に雪降らなくて。
大学からこっちなんだけど、毎年凄い降るよね。
楽しみ」

その言葉に、さらに首を傾げてしまう。

私は毎年のこの大雪に、心底うんざりしている。

そう思い、その場を離れようとした時、私の頬に、ポツリ、と小さな雪が落ちた。

私は、その彼の方に目を向けた。

彼は、空を見上げていた。

空から舞い降りるその白い花びらのような雪を、
嬉しそうに見つめていた。

それが、私が唯一知っていると言える、本当の彼だと思う。




《終わり》