冬の花

「彼女は、何もしていない!
殺害容疑でって、証拠でも見つかったんですか?」

鳴海千歳が私を守るように、
前へ出た。

鳴海千歳は一度阿部さんに会っているから、
昨日の私の電話の相手がこの人である事も知っていて、その会話も聞いていた。

私の自供がない限り、現段階で私を逮捕出来ない事も、分かっているからだろうか。

鳴海千歳が、こんな風に私を庇う事が意外で、少し驚いた。

私が自首する事も、逮捕される事も、
もう鳴海千歳は受け入れていると思っていたから。

阿部さんは鳴海千歳の言葉には答えず、
階段を登り、舞台の上へと上がって来た。

会場は静まり返り、ここに居る全員の視線が阿部さんに向いていた。

阿部さんは、背広の内側に手を入れた。

手錠を取り出すのだと思ったけど、
その手に握られているのは、拳銃だった。

初めて見た拳銃は、その存在自体がとても恐ろしくて、
見た瞬間体が震えた。

阿部さんは、私を殺しに来たんだ…。

正当防衛に見せかけて撃つにしては、
この状況で無理がある。

なら、私が捕まり、父親や佑樹の殺害の事で阿部さん自身火の粉が降りかかるくらいならば、
私一人を殺した方が罪が軽いと思ったのだろうか?

ただ、私を殺したいだけなのか?

阿部さんは、銃を私に向けた。

その瞬間、目が合うが、その目から私に対する殺意は読み取れなかった。

違う。

私じゃない。

阿部さんが殺そうとしているのは、私じゃない。