冬の花

「大学の頃、映画サークルの1つに入ってたんだ。
それは、ただ単に定期的に飲み会が行われて、その場で映画の話をするだけの、緩いサークルだったんだけど。
そのサークルで、同じ歳の一人の女性と仲良くなった。
その子とは、個人的に会うようになって、やがてそれは交際に発展した。
その子は小説家を目指していて、書いた作品を度々俺に見せてくれた。
俺も脚本家を目指していて、俺自身も作品を彼女に見せる事もあった。
彼女の作品はとても才能に溢れていた。
話の流れなんか、俺には思い付きもしないような展開で。
でも、何かが物足りないなくて、
俺ならもっとこうするのに、と思っていた。
こう書いた方がもっと面白いのに、とか」

焦っていたんだ…。

そう口にすると、私を抱きしめる手に力が入るのが分かった。

「親からは脚本家なんて、って相手にされてなくて。
大学3年の頃には、もう親のコネで就職も決まっていて。
コンクールに何度応募しても、佳作くらいなら貰えても、思うような手応えもなくて。
結果さえ出れば、親を納得させれるのに、って。
だから、彼女の小説の1つを、
盗作した。
彼女には内緒でシナリオに書き換えて、それをコンクールに応募した。
結果は、発表される前から分かっていた。
それくらい、良い作品だと自分で思った」

それが、あの鳴海千歳のデビュー作となった《君の涙の色》なんだろう。

「その結果が出たくらいから、
その彼女の存在が怖くなったんだ。
俺が自分の作品を盗作したって、誰かに話すんじゃないかって。
タイトルは変わっているけど、
彼女はあれが自分の作品だって絶対に分かっていたはず。
なのに、俺に何も言わない彼女が、さらに恐ろしく感じた。
段々と愛も冷めて。
だから、彼女を遠ざけ始めて彼女に別れを告げた。
彼女は特に俺に理由を聞かずに、あっさりと分かったと頷いた。
けど、彼女暫く大学に来なくなって、
次に見掛けた時、目に見えて窶れて手首に包帯巻いていた」

それは、手首を切り、自殺を図っていたって事だろうか?

失恋を苦に?

恋人に作品を盗作されて、それでだろうか?

「最近はその手に大きな文字盤の腕時計をしていて、
その傷は見えなかったけど」

「最近?」

最近、鳴海千歳はその彼女に会ったのだろうか?